春の訪れ、大漁の鰯
氷見浜の春は、鰯の大漁とともに始まる。氷見浜の鰯は3種類。マイワシ、ウルメイワシ、そしてカタクチイワシ。1)マイワシは、近年日本では漁獲量は激減し、高値となった。一方、カタクチイワシは、マイワシやウルメイワシに比べて血と脂が多く、水産加工業泣かせの魚でもあり、評価は低い。魚ヘンに弱いという字があてられる鰯は、その名の通り、水揚げされるやいなや劣化が始まる。新鮮な鰯の脂を劣化させない技が、氷見の水産加工業のそれぞれの店の腕の見せ所となる。
氷見の伝統食『こんか漬』
氷見市北大町の柿太水産。「柿太」の屋号は、江戸時代/初代の柿谷太助からくる。氷見の魚を扱い続けて、長い時代を経てきた。柿谷政希子さん(37歳)で6代目となる。2)
柿太水産では、マイワシ漁獲量の減少にともない、3年前からカタクチイワシで『こんか漬』を作るようになったという。『こんか漬』とは、魚を米ぬかで漬け込んだ保存食。米ぬか漬がなまって、『こんか漬』と呼ばれるようになった。
伝統的な鰯の『こんか漬』は、鰯の頭と内臓を取り、3)塩をして、4)1週間ほど漬け込む。5)その後、ざっと水洗い6)して米ぬかをまぶす7)。きっちり方向をそろえて8)、すきまなく漬け樽に並べて9)、唐辛子・糀・米ぬかを振りかける。10)鰯を樽いっぱいまでぎっしりと詰めたら、11)米ぬかをかぶせ、重石をかけて時を待つ。12)
この工程は、たぶん、氷見で『こんか漬』を製造している業者であれば何処もよく似たものだ。
氷見へのこだわり
しかし、柿太水産のこだわりは、この一見何処とも変わらない材料と工程の中に見え隠れしている。氷見産カタクチイワシ、13)天然塩、米ぬかも糀も氷見産のこしひかり。14)漬け樽は、氷見の老舗醤油屋さんから譲り受けた古い木樽だ。15)頑固に地物・自然にこだわっている。
氷見浜では、加工屋泣かせの雑魚扱いのカタクチイワシ・・「氷見ブリ、氷見ブリ〜言うけど、ブリの良いのはもう皆しっとる。でも氷見は雑魚もおいしいがよ。カタクチイワシは身体に良いもん」と母の悦子さん(65歳)16)は話す。「でかいポリのタンクで『こんか漬』漬けたかして、うまないわいね。」と、頑固者の父の正成さん(69歳)17)は、従業員の昼の味噌汁用の魚をさばきながらつぶやく。
氷見での挑戦
そして、柿太水産は、頑固なまでのこだわりと同時に、今以上に良いものを!とチャレンジを続けている。仕込みに使うのは富山湾の深層水、18)富山県立大学の産学連携共同プロジェクトによる現代の秘伝だ。19)
富山湾深層水は、日本海固有水とも呼ばれ、富山湾の最深部にある巨大な水塊。深層水は、年間を通じて2℃以下の低温で、表層の海水と比較して栄養塩が豊かで、かつ、細菌類が非常に少ないという特徴を持つ。もっとも古くから富山湾に存在する水を利用して、県立大学の葭田隆治(よしだりゅうじ)教授と古米保(ふるまいたもつ)教授との共同作業20)で、干物の研究と開発を進めている。21)深層水ってなんだか良さそう、という程度ではじめたが、深層水は知れば知るほど奥が深くて可能性が広がる、と政希子さんは思っている。現状の魚の良さだけにとどまらず、水産加工業の行く末を思って科学の最先端をみて見たら、そこに太古の水=富山湾の深層水があった、というわけだ。「深層水を干物に利用することで、今以上に低塩でおいしい干物、安全・安心・無添加の干物を目指したい。」と政希子さんは言う。
私たちが取材に訪れたとき、塩漬けされたカタクチイワシは、処理・塩漬けの工程を経て、すでに水揚げから1週間が経過していた。しかし、米ぬかをまぶしたカタクチイワシに鼻先が触れるほど近づいても、何処にも生臭さがない。
伝統食への思い、氷見の魚への愛着、子ども達の健康のために無添加・低塩分への挑戦。22)
こんか漬を、オリーブオイルに漬け込んだり、甘酢漬けにしてみたり・・・、氷見の伝統食でありながら、それだけにとどまらない氷見産の新しい食の世界23)を創り続ける努力は続く。
袋入りのこんか鰯画像24)
2006年3月6日(月)・13日(月)・15日(水) 取材 |
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