冬の味覚の王者 『氷見ブリ』

初冬の12月、真夜中の富山湾海上では、青いイナズマとともに雷鳴が絶え間なく鳴り響く。地元ではこれを「ブリ起こし」と呼び、このブリ起こしとともに氷見にブリがやって来くると、ブリ漁の最盛期が始まる。氷見で水揚げされるブリは 1)、身が締まり脂のノリが最高で、東京築地の市場でも「氷見ブリ」と呼ばれ、最も高値で取引される。また、その歴史も古く、江戸時代から京都や大阪での人気が高く、当時京都にいた加賀藩主・前田利家も氷見から京都へブリを取り寄せていた。「氷見ブリ」は、まさに王者の貫禄なのだ。

『氷見ブリ』の旨さの秘密

ブリは春に東シナ海で生まれ、夏に日本海を北上して北海道沖まで行き、冬に南下する回遊をくり返している。富山湾にブリがやってくるのはちょうど冬の産卵前、一番脂がのりきった時期。産卵に備え丸々と太ってはいるが、海水の冷たさで身はギュッと締まっている。
それを、氷見の漁師は定置網で傷をつけずに漁獲し、船底に積んである大量の氷に一気に放り込む。これは氷見独特の「沖締め」と呼ばれ、死んでも体が硬直せず、抜群の鮮度が保たれる。
一年で一番脂がのって身の締まったブリを、氷見の最高の技術でおいしさを保つ!文句なく美味しいわけだ。

朝6時、市場の主役『ブリ』

ブリのセリは朝6時と決まっている 2)。時間に合わせて、ブリが方々から市場に到着すると、市場は一気に活気づく。ズラッと並んだ、ブリ、ブリ、ブリ 3)。体長およそ1m、体重8キロ以上、大きい物は、15キロもある。一面ブリで覆い尽くされた市場の光景はまさに圧巻である。
セリ人に美味しいブリの見分け方を聞くと
「やっぱし、太ってコロコロしたんが、脂ののったブリやなぁ!」とのこと。
しかし、大きければ良いかというとそうでもないらしい。「脂のノリがおいしさの決めてやから、横に丸々としているのが良いがや。腹の方だけでなく、しっぽの付け根まで太いブリは本物の脂があるのぉ」
良いブリをいかに競り落とそうか…セリ人と仲買人の熱い掛け合いは続く。

氷見のくらしに密着したブリ

氷見の人はなんと言ってもブリが大好き!
シーズンになれば、話題はブリ満載。父ちゃんたちの立ち話では「今日ブリはんさ(沢山)捕れたらしいのぉ」などと挨拶代わりに出てくる。
また、ブリ大漁の話題は地方紙の一面にのってしまうほどの注目トピック。NHK富山のニュースにトップニュースとして取り上げられるのだ。
ブリはお歳暮にも多く使われる。その時期になると、1本10万円以上することもあるのだが、お歳暮として求める人は一本まるまる買っていくのだ。氷見から嫁いだお嫁さんの両親は、年末に娘の嫁ぎ先にブリを持っていく。お婿さんに出世魚のブリの様に出世してほしいとの願いが込められているのだ。

ブリ丸ごと一本いただきまーす!

氷見の魚屋には、一本安くても5万円はするブリがゴロッと鎮座している。魚屋は見事な包丁さばきで、それを解体していくのだが、鮮度のいい氷見ブリは捨てるところがない。身は刺身、焼き物はもちろん、頭やカマは塩焼きに、フトウ(胃袋)は酢みそ和えや塩焼きに、エラ
は唐揚げに、それらが普通に店に並んでいる。スーパーの魚屋でだって簡単に買えてしまう。ブリのあらパック4)ブリ切り身パック5)「今日ブリばらす(解体)?内臓とっといてよ」といえば確実に手に入る。

そんな氷見では、食卓に旨みいっぱいの氷見ブリが登場する。食べ方は至ってシンプルだ。
お刺身は、新鮮なコリコリしたのも美味しいし、1日おいて、ブリの油が溶け出すように少し柔らかい食感になったのも美味。漁師さん達は、お刺身に大根おろしが欠かせないという6)。さっぱりと沢山食べることが出来るからだ。
漁師の家では、ブリ大根はみそ味が多いらしい7)。さっぱりとしているのに深いコクが引き立つ、ブリの旨みがいっぱいの家庭の人気料理だ。
最近はブリしゃぶが人気急上昇。はじめて食る時「新鮮なブリなのに、お湯に通すなんてもったいない」と思ったが、しゃぶしゃぶしてみると、外はほどよく脂が落ちて、中のジューシーさがたまらなかった。
豊かな氷見の自然がブリを導いてくれる事に感謝して、ブリの旨みを末永く味わいたい。

2005年12月20日(金)・2006年1月10日(月)取材
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